アントニオ・ロペス 面への執着

アントニオ・ロペス 面への執着

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素描・絵画・彫刻は一体である。byロペス

アントニオ・ロペスはスペインのリアリズムの巨匠。 スペインリアリズムの代表的作家には フランケロ や ナランホ などがいますが彼らとロペスの仕事の内容 は違います。彼らのような超絶技巧のリアリズム作家達とロペスを同じくくりにしてしまうことは私にはできませんでした。 どこが違うのか? ロペスをロペスたらしめているのは何なのか??

   私がみるに 【汚しへの愛着】

       そして
【面への執着】
特に【面への執着】が彼の最大の特徴であるように思います。
他に彼の特殊性を簡単にあげるなら、1つの作品への時間のかけ方が他の作家に比べてひどく長いということです。よって作品数もごく少ないのです。 

 

 

 

ここでは、ロペスの【面への執着】という観点から掘り下げ て理解を深めようと思います。

初期  のロペスは印象派のような気配が感じられました。実際に彼の作品を肉眼で見ると、画集などでは写り込まない絵の具の一層があるように思え ました。 ふんわりとしてやわらかな光を多く含んだ層があり二次元的な深みがあります。ロペスは地元スペインで印象派の作家という評価もあるとか。 初期の作品から【汚し】は登場していますが【面】の存在はあまり見受けられません。 しかしこの絵の具による深みは早期に姿を消していきます。印 象派とリアリズムとは間逆であるとも言えますね。 空気を描く作業から実測に移っていくのです。

オリジナルデスケールの存在
彼は制作のためにオリジナルの道具を使用しています。こんな道具だそうな・・

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 コンパス的なもので対象物を測り、そのコンパスを直接画面に持っていき、測った長さをそのまま画面にあてがうという使い方らしいです。 この装置を使っているという話は、私の友人である服部氏がスペインをブラブラしている時に偶然街の中で絵を描いているオッちゃんがいて見てみるとロ ペスにそっくり!絵を見ると本物のロペスでビックリ!!服部氏は自分がスペイン滞在中に買った靴とロペスがその時に履いていた靴が一緒だったという ことを熱心に語っていました(笑) この装置によって対象を、冷静に実測し確たる証拠として画面に記録していく。その記録をとる工程で対象は【面】として実測されていくのです。彼に とって【面】は確たる証拠であり冷静に対象を写し取るために、つまりリアルを追求するために最も適した方法なのかもしれません。 対象を面で認識 してしまえば感情の混入などが防げますからね。 このオリジナルデスケールの登場はいつからかは特定できませんが上の写真の作品〈夕食〉の頃には トレーシングペーパーを使っての対象を写す作業に留まっていたと思うので、その後の風景画あたりから使用しているのかな?


デッサン
デッサンのテクニックは日本でのアカデミックな手法と全く違う。日本が描き起こすデッサンだとすると、ロペスは塗るデッサン 。描き起こすデッサンは面を 拾っていくのではなく面を形成する点を拾っていく作業です。に対してロペスの塗るデッサンは面を連ねていくデッサンですね。

 

汚し・コラージュ
IMAG2427ロペスの作品の多くに共通点があるとすれば、それは『汚し』の処理がされていることでしょう。彼はこの【汚し】をこよなく愛しているようです。 彼の汚しの 作業は平面の油絵だけに留まらず、デッサンにも立体作品にも登場してきます。 この『汚し』を必要とする理由は写実に絵画性を持たせたいからなのかな? 写実的リアルをあまりに追及すると描いている本人は目的を見失いそうになって恐ろしくなるのかもしれない。 リアルの追求の果てにある写実性から発生する説得力と絵画的魅力は共存しえるのか?とね。 これは作者である画家自身の存在意義なんかにも及ぶ話ですね。 自分とはどこに存在するのか? この〈トイレと窓〉という作品は【汚し】という観点からモチーフの選択 をしたのかもしれない。 画面上の汚しの処理と実際のモチーフの汚れが混在する作品です。 
 

 

 

 

立体作品
1968年~1994年までの長い期間制作していた一つの彫刻作品 「男と女」 驚いたのは眼球に完璧な義眼ともいえるリアルな目玉がはめ込まれていることですが、容易に分かるのは彫刻家の仕事ではないこと。 彫刻家ならば こういった仕事はまずしないでしょう。制作される彼の立体作品と彼に、長い期間をかけてどんなことが起きていたのだろうか?
う~~~~~む・・・・。
この作品を見て私はロペスの一連の立体作品への解釈については保留することにしました(笑)
私は彫刻の畑ではないので分かりません!!いずれ分かる時が来ればいいね。まだまだ奥深いロペス。 モチーフや絵の具の扱いに個性はそこまでないので、彼は何を追及している画家なのかは実に分かりやすい。分かりやすいだけに圧倒される。 今回 は文化村でのアントニオ・ロペス展という一つの展覧会を見ての感想にすぎないので、 他の場面で彼の作品に出くわしたら考えが変わるかもしれない。そして、いずれ彫刻作品についても触れてみたい。